落葉の栞

埋もれてしまった良書を貪る日々

ビジネスに活かす脳科学

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弊社のとある方に「最近どんな本を読んでいるんですか?」と聞いたらこの本を紹介してもらいました。経営学マーケティング・戦略論・組織論・マネジメント論・会計で成り立っているんだそう。

自分ではない他の人がどんな本を読んでいるのかは昔から興味があって、その人がどんな一次情報に触れているのか、どんな文章が心の琴線に触れたのか、人それぞれ感性が違って面白いなと思います。 

 

今日のレバレッジメモ (かなり引用多め)

心と脳は切っても切り離せない関係であり、企業は脳の中にある無意識の欲求を満足させるような商品やサービスを提供する必要がある。

今の時代は心が満たされていない人が大勢いる。商品の購入で心の満足感は得られないが、心の豊かさに対する無意識の飢餓を埋める手段としての購買行動が行われているのではないか。 

アンケートやグループインタビューの落とし穴

・無意識な事は言葉にできない
・定性評価を定量評価にするには限界がある
・設問の文章や順番で結果が変わる
・質問や仮設で想定していない事はわからない
・本音と建前を使い分ける
・事後的な調査になるので、事実が歪んでしまう可能性がある

人の意思を左右する脳のバイアスまとめ

・自分自身に何らかのバイアスが生じていないか
・自分の相手となる報告者やお客様にはどんなバイアスが発生しているのか
・グループの中にいる人はバイアスの影響を受けやすいので、グループの意思決定にバイアスが生じていないか
・提案者の私利私欲が入っていないか
・自らの提案に惚れ込みすぎていないか
・みんなから支持される結論に導こうとしていないか
・目立つものだけに目が向いていないか
・先入観で判断していないか
・アンカーから抜けられなくなっていないか
・後光が差して見えていないか
・過去に囚われて執着しすぎていないか
・自信過剰になっていないか
・最悪の事態への備えはあるか
・機会損失をしていないか

 

企業はお客さんの無意識の欲求を知るべく調査を行う一方で、お客さんはなぜその商品を選んだのか説明出来ないというジレンマはあるあるだなと思いました(笑)
「なんとなく」を言語化するのはすごく難しくて、「私のどこが好き?」と聞かれると困ってしまうような感覚に近いのかもしれないです。

ユダヤの商法

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会社の書架を漁っているうちに(デンと発音してください)と書かれた本が目に飛び込んできたので読んでみました。この本を手にした時、「タ」と読めばいいのか「デン」と読めばいいのか正直分からなかった...。藤田ウーンと読んでしまう日本人の気持ちがすごく分かります。

そして経営者の間ではお金儲けのバイブルとしてかなり有名な本みたいです。定価は750円ですが、調べてみたところメルカリでは1万円以上で売れていました。「人生は金やでェ」と身も蓋もないことをサラッと言ってしまうあたり、橘玲さんと同じような香りがします。その中でも最も印象的な一言を紹介します。

ユダヤ商法に商品は二つしかない。それは女と口である。


正直「こんなこと言っちゃっていいの?」と思いました。完全に男性読者を想定していており少々憤りを感じたのですが、確かに女性の心を掴んでいる商品は飛ぶように売れているんですよね。実際にタピオカなどのブームは女子高生から始まっていますし。それに人間には必ず口がありますから買ってもらえる対象が広く、食べ物は消化されるのでまた新たな食べ物が必要になってきます。そうすると商品を継続して買ってくれる方が増えるわけです。

かつて男性が狩猟に出かけてた際、女性は木の実を集めてきたと言います。女性が新しい食べ物を試したくなる気持ちは先祖代々から受け継いできたのかな。

他にもマーケターとして心に留めておきたいと思った一言を紹介しますね。興味がある方は本をご覧になってみてください。


・儲けの法則は78対22
・「綺麗なお金」「汚いお金」は無い
・ゼニの取れる名前をつけろ
・安売り競争は死のレース
・大衆の憧れ心理を掴む
・法律の隙間にはキャッシュが溜まってる
・信用を得る宣伝は口コミに限る


企業の本質は利潤を追求することですが、個人的にはお金儲けにも倫理感は大切だなと思っています。写真はさりげなく自社を宣伝するスタイルで(笑)

 

予想通りに不合理

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これまでの経済学では、人間は自己の利益を最優先して経済的に合理的な行動を取るとされていました。それに対して、必ずしも人間が合理的な選択を取るわけじゃなく、一時の感情に動かされて非合理的な選択を選んでしまうのではないか?と研究してきたのが行動経済学です。

「予想通りに不合理」という本。不合理なのに予想通りなの?と疑問に思うタイトルです。人間の行動はどこまでも不合理だけど予想できるんだということを様々な実験を基に説明しています。元々は授業の課題図書として買ったのですが、マーケティングに活かせそうな知識がたくさんありとても面白かったです。どの章を取ってもレポートが書けそうなぐらい面白いのですが、今回は2点だけ紹介したいと思います。

1.松竹梅の法則

新聞を購読するとしたらどの選択肢を選びますか?
A ウェブ版だけの購読      (59ドル)
B 印刷だけの購読        (125ドル)
B'印刷バントウェブ版のセット購読(125ドル)

とても有名なのですぐ見抜けるかもしれませんが、1回読むのであればウェブ版だけ選ぶのが合理的です。しかし同じ125ドルでどちらも読めるのならば、印刷版とウェブ版のセットを買ってしまおうと思う人は多いはずです。

私たちは物事をなんでも比べたがりますが、比べやすいものだけを比べて、比べにくいものは無視する傾向があります。AとBを比較するのは難しく、その一方でBとB'の比較は簡単なので相対的にB'が一番良い選択肢に見えますよね。

今後容姿が自分と似ているけれど、少しだけ整っている同性が合コンに付き合ってくれと言ってきたら...連れとして誘われたのか、それともオトリとして呼ばれたのか疑ってかかってしまうかもしれませんね(笑)

2.アンカリング

ハリー・ウィンストンで黒真珠をダイヤモンドと同じ列に並べたところ、今まで全く売り物にならなかった黒真珠が世界最高峰の宝石の仲間入りを果たしました。
たとえ最初の価格が恣意的でも一旦その価格が自分の中で定まると、ある品物やそれに関連する商品にいくら出すかが決まってくるのです。

アンカリングが最初の決断に基づいているというなら、そもそも値段が高めのスターバックスはどうやって私たちに受け入れられたのでしょうか。

スターバックスが成功した理由は、価格ではなく雰囲気に力を注いだから。

店に入ると豆の香りが立ち込むようにし、陳列ケースには見栄えのする軽食を並べています。それだけでなくショート・トール・グランデといったサイズ名からキャラメルフラペチーノ・マキアートといった商品名まで、ネーミングに強くこだわっているのが分かります。

他のコーヒーショップとは違って入店後の体験が格別なために、スターバックスの用意したアンカーを私たちはすんなりと受け入れてしまうのだそうです。

女の機嫌の直し方

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お気に入りの本を読むと必ず参考文献を読むのですが、「女の機嫌の直し方」というキャッチーなタイトルに惹かれて購入しました。2時間もあればサラッと読めるのに、脳科学の深い領域に足を踏み入れることができる一冊です。11月に映画化も予定されているんだそう。

女の機嫌の直し方という一見フェミニズム的なタイトルでしたが、その中身は男性と女性の脳の違いや考え方の違いが多くてとても楽しめる内容でした。特に少年マンガと少女マンガのくだりはウンウンと頷くばかり。

少年マンガは、才能があって誰よりも苦しんで努力して友情に厚い主人公が最後に勝利する。鬼滅の刃とかまさに「公平性と秩序と努力と戦い」で出来てるよね。

一方で少女マンガは、エコひいきの連続で何の取り柄もない少女が何の根拠もない勝ち方をする。地味なメガネっ娘の主人公に超お金持ちでイケメンの御曹司が恋をするとか、下手なバレリーナが指導者に見初められてローザンヌ国際大会に出場!?とか...少女マンガあるあるすぎて笑ってしまいました(笑)

他にも男女の違いが色々ありましたが、マーケティングに役立ちそうなものをリストアップします。

男性脳
・問題解決思考
・合理系を好む

女性脳
・共感思考
複雑系を好む

男性が好きな商品
・無駄な飾りがない
・スッキリと構造化されたもの
・機能性が美しいフォルム
・色数が少なく直線でシャープなもの

女性が好きな商品
・色数やバリエーションが多めなもの
・花模様やフリルなどの複雑な刺繍
・花束やクッキーなどの詰め合わせ
・ふわふわやキラキラ

男女の脳には生まれつき性差があるとはいえ、そもそも脳に無駄な機能なんてない。「女性はすぐに感情的になる」という批判があるけれど、それは女性がわがままだからじゃなくて、自分の安全が最優先されるから。赤ちゃんを出産した後も授乳期間が必要なので自分が健康でいなければより良い種の保存が叶わない。だから「怖い」「酷い」「辛い」など自らの安全を脅かす自体に伴う感情や「可愛い」「嬉しい」「幸せ」といった感情にも脳が強く反応するんだそうです。

今日の名言

 人工知能的アプローチの男女脳論から言えば「女は女に生まれる。そしていい女になるのだ。」

 

 

残酷な世界で生き延びるたった一つの方法

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私が橘玲さんの存在を知ったのは「言ってはいけない」が出版された時からです。橘さんの本には目を背けたくなるような残酷な現実が散りばめられており、遺伝に関するタブーを赤裸々に綴っているところに衝撃を覚えました。言い切ってしまうところに清々しさすら感じますよね。

今回の作品も遺伝のタブーと絡めつつ、自己啓発に対するアンチテーゼを主張しています。かく言う私も、(多くはアメリカ発の)自己啓発書が本屋にズラりと並んでいるのを見てモヤモヤを抱いています。自己啓発書は何故か抽象的なタイトルの本が多くイマイチ手に取ろうとは思えなくて。ただ天邪鬼なだけかもしれません。

「残酷な世界で生き延びるたった一つの方法」と言うタイトルですが、この本の中身の99.9%は「残酷な現実」がデータや統計をもとに詳細に書かれているので結論だけ早く知りたいという方はあまりオススメしません。


どうやら知能は「政治的には」遺伝しないという前提になっているみたいです。知能の差は就職の機会や収入を通じて全ての人に大きな影響を与えるため、もし政府がそれを認めてしまえば、不平等を認めてしまうことになるのです。それを認めてしまったら大騒ぎになることは目に見えていますよね。身長や運動神経の遺伝は当然のように語られるわけですが、こと知能や性格の遺伝になると何故かタブーになってしまうのは私も前々から疑問に思っていました。

また自己啓発の思想を根本的に否定しているのが痛快でした。売れる自己啓発書のほとんどは日々の難題を一発逆転の発想で解決しようとするものばかりで、根幹は環境を変えずに「自分が変わる」ことで出来ているんですよね。自分を中心とした狭い世界に閉じこもる風潮からして、自己啓発は私たちにウケやすいのかもしれませんが自分自身がそんな簡単に変わってしまったら逆に怖い。

自己啓発書には「能力は開発できる」「私は変われる」「他人を操れる」どれも魅惑的な言葉がズラリと並んでありますが、それを読んで人生が劇的に変わるかと言えばそうではないと思います。


現代の知識社会において、言語と数を扱う能力に秀でた人が収入に有利に結びつくようになっているのは紛れも無い事実です。だからこそ私たちは知識社会に適応できるように自分を変えようとしますが、何十年間積み上げてきたものを一瞬にして変えることなんてそうそう出来ません。それならば一体どうしたら私たちは幸せになれるのでしょうかね...。

 

長くなるのでまた今度ゆっくり話しましょう。


今日の名言

僕たちは幸福になるために生きているけど、幸福になるようにデザインされているわけではない。