【要約】マーケティング近視眼
第2次世界大戦以降、衰退などありえないと信じられてきた産業の成長が鈍化してきた。
しかしレビットに言わせれば「いずれの場合も成長が脅かされたり鈍ったり止まったりする原因は市場飽和にあるのではなく、経営に失敗したからである。」
その具体例として鉄道会社と映画会社のケースを取り上げる。
「鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客をほかへ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的とせず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。映画の都ハリウッドは、テレビの攻勢による破滅からかろうじて踏みとどまっている。映画会社が危機に陥ったのは、テレビの発達によるものではなく『戦略的近視眼』のためである」
既に衰退しつつある産業に共通する4つの条件
・人口は拡大し人々は豊かになり続けるから、今後も間違いなく成長すると確信している
・自分たちの産業の主要製品を脅かすような代替品などあるはずがないと確信している
・大量生産こそ絶対だと信じ、生産量の増加に伴って急速に限界コストが低下するという利点を過信している
・周到に管理された科学実験によって製品の品質はどんどん改良され、生産コストを低下させるという先入観がある
マーケティングの本質とは
事業を製品やサービスではなく、顧客中心と視点で考えること
では、製品中心ではなく顧客中心とはどのようなあり方なのか。
顧客中心視点で考え成功したフォード社の分析
「当社のポリシーは、価格を引き下げ事業を拡大し製品を改良することである。価格の引き下げを第1に挙げたことに注意してほしい。当社は、コストが固定的だと考えたことはない。だから、さらに売上げが増えると確信するところまで、まず価格を引き下げる。その後で、その価格で経営が成り立つよう懸命に努力している。当社はコストで頭を痛めることはない、新しい価格が決められると、それにつれてコストが下がるからである。」
フォードの言葉の前提となっているのが、「大量生産が利益を生むという考え方は、経営計画や戦略のなかに組み込まれてしかるべきである。だがそれは、顧客について真剣に考えた後のことである」という問題提起である。
世間は、フォードが組立ラインを発案したことでコストを切り下げ、500ドルで何百万台ものクルマが売れるようになったと理解している。しかし実際にはその逆で、フォードは1台が500ドルならば何百万台も売れると考え、それを可能にするための組立ラインを発明したのだという。
コストを積み上げて価格を決定する「コストプラス法」が常識であった時代に、フォードは顧客に受け入れてもらうための価格を設定し、それを実現するためにコストの削減に取り組んだ。
私たちには、ビジネスの成功理由をわかりやすく理解しようとする傾向がある。
フォードの成功は「大量生産体制」という一言で紹介されるが、その裏には顧客に受け入れてもらうためのコストへの取り組み、つまり顧客中心というマーケティングの発想と取り組みがあった。
同じように私たちはアップルの「iPod」も、大半の人が着想の豊かさやデザインのよさを賞賛するが、それは一面でしかない。